「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ

きっかけ

土井英司の「超」ビジネス書講義』で紹介されているのを知り購入することに。もとになる『失敗の本質』のほうはちょっと敷居が高そうな感じがしたので、まずこっちを読んでみた。ちょうど1週間前の日曜日に家族と夕飯の待ち合わせをする前の本屋で手にして、思わずしばらく立ち読みしてしまったのも大きい。

感想など

うーん、なんというか日本人として、目を背けたくなるような悔しい内容がたくさん。ゼロ戦(※)がなぜ勝てなくなったのかなんて、読んでいるだけでも悔しさがこみ上げてくる。ゼロ戦と戦艦大和は、日本人の何かの象徴でしょう?私はそう思う。今の若者はもう違うのかなあと少し思いながらも。

  • ※ゼロ戦という名称について
    • 昨日職場でこの本とゼロ戦の話をしたら、若い女の子(23歳)がゼロ戦を知らないので衝撃を受けた。お前、非国民だ!と思わずののしった(笑)。

      私の記憶では、三菱零式艦上戦闘機が正式名称だ。子供の頃、学研の図鑑『飛行機・ロケット』ではゼロ戦のページばかり何度も見た。確かそのページには、零戦(れいせん)と呼ばれた、英語ではゼロファイターといって恐れられたというようなことが書いてあった。

      私が父親から聞かされていたのは、ゼロ戦という名称だった。和洋折衷のような名前だが、私はこれが気に入っているので、本書では零戦と書いてあるが、ここではゼロ戦と書くことにした。映画化されるという百田 尚樹 の『永遠の0』も零ではなくて、ゼロでしょ。

      参考までにウィキペディアの零戦の項目をどうぞ。

ゼロ戦が勝てなくなったということは、子供のころにNHKの特集で見て知っていた(DVD発見!)。当初、アメリカのグラマンF4Fには圧勝だったが、戦時中に開発されたF6Fにはまったく勝てなくなったということは30年以上たった今でも覚えている(ちょっと調べてみたところ、F4Fに対して圧勝どころではなく最初から負けているようだ)。

ゼロ戦が勝てなくなったのは、単にF6Fというすぐれた性能を持つ戦闘機を開発したからだけだと思っていた。NHK特集で、墜落したゼロ戦をアメリカの技術者が調べたということまでは覚えていたが、それだけではなかった。そこにゼロ戦とは何かを知らない人でも本書を読む価値がある。

「失敗の本質06 達人も創造的破壊には敗れる」で創造的破壊の3つの要素が挙げられている。

  1. ヒトによる創造的破壊
  2. 技術による創造的破壊
  3. 運用方法による創造的破壊

F6Fの開発は、このうち2に過ぎない。なぜ開発できたかが1にあたる。これも重要だ。これが根本ともいえるだろう。その上で、ここで私が一番注目したいのは3の運用方法による創造的破壊である。そのまま本文を引用する。

F6Fのような対零戦の新型戦闘機(技術的な革新)が登場する以前に、米軍がF4Fのサッチ・ウィーブ戦法で、撃墜比率を劇的に改善したことは、技術で勝っている状態でも「運用」で負ける日本人の姿を浮き彫りにしています。無数の零戦を撃墜されながら、日本側は終戦までこの運用法の存在を見抜けませんでした。

運用法の存在を見抜けなかったというのが泣けてくる。それがなぜなのかというところがまた重要なところ。

そして、F6Fの強みは以下のようなことだった。

 注目すべき点は、新エンジンを完成させたこと自体で勝敗の結果が変わったのではなく、新エンジンが飛行速度を保ちながら「重武装・高い防弾性」を可能にしたことで、空戦の勝敗を決定する要因(指標)が変わり、零戦が敗れた点です。
 単に新しい技術ではなく、“戦局を変える新技術”がカギだったのです。

誤解されると困るのだが、本書はゼロ戦のことばかり書いてあるわけではない。むしろゼロ戦はほんの一部だ。単に個人的に思い入れが強く、私が書きやすいから書いただけに過ぎない。

誰もが知っているインテル、マイクロソフト、アップル、日産、ホンダ、などなど身近な企業の例がたくさん出てくる。歴史から学ぶ紛れもないビジネス書だ。

紹介する順番がまったく逆になっているとは思うのだが、本書のもっとも大切な主張は、

戦略とは「追いかける指標」のことである。

その指標が間違っていれば、どんなに努力しても勝つことができない。そして、日本人の練磨の精神・美点がそこから抜け出すことを妨げる。新たな指標を見つけようとしない。なんというジレンマ。読んでいてなんとももどかしくなってくる。

指標を変えることは既存のルールを変えることでもある。日本の歴史で真っ先に思いついたのは織田信長の鉄砲隊。武田軍を大虐殺したという長篠の戦だ。それから、幕末の坂本龍馬。これからはこれだとピストルを出して見せた(この辺ぜんぜんくわしくないんだけど)。坂本龍馬などはまさに戦略を持って、ルールを変えていこうとした男なんじゃないかな。

オリンピックなどで日本が得意な競技でルール変更が行われるなんてのは今までに何度もあったことだ。

日本の企業についてもそうなのだが、最近の話題で一番怖いと思ったのは、TPPだ。TPPについては今まで漠然と不安を感じていたが、この本を読んではっきり恐怖に変わった。まさに、ルールが変わり、指標が変わり、日本の国力は徹底的に決定的に落ちるのではないか?政府はきちんとした国家的な戦略があるのか?ないだろ、絶対に。まんまとはめられるんだろ?アメリカに。

この本だけを読んでどうこうなるものでもないと思うが、日本人ならば絶対に読んでおきたい一冊。

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初回更新:2013-03-17 (日) 17:06:36
最終更新:2015-06-25 (木) 10:36:36
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