フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑
思ったより薄い!しかし約1400種の昆虫生態写真!
すぐれた昆虫写真家はたくさんいらっしゃると思うが、この本の著者の海野和男さんは、一番親しみを覚える写真家である。昆虫少年がそのままプロの写真家になった、そんな印象を受ける。特に本書は、観察者の、それも初心者の視点に立って作られている。
ではこの本は初心者だけが対象かというと、違うと断言できる。私自身は初心者ではないと言っていいと思うのだが、それでも知らないことが満載で、数少ない文字を読むたび、「へー」の連発である。
本書のコンセプトは、著者のWEBページを直接ご覧いただくのがいいだろう。
よりくわしくはP2の「本書の目的」を読むべきだ。なになに、近くに本屋がない?この本が置いてない?ネットでしか本は買わない?しかたないなあ、一部引用しよう。気に入ったら買うんだよ。
まったくの素人でこれから虫の写真を撮ったり、観察したりしたいと思っている人、ブログに載せるのに種名を調べられない人など、初心者に役立つようにという思いで作った。
では、最近よく槍玉にあげられる上から目線かというと、とんでもない。
ぼく自身(中略)アブやハチとなると、よく間違えたりするので、自分の経験を元に本作りをすることにした。
私は本書の存在を以下のツイッターで知り、ちょっと調べてすぐ予約、中身をパラパラ見て、いろいろ感じるところがあってからはじめて「本書の目的」も読んだ。
@bunichiss 『昆虫識別図鑑』なんて聞いたことない。調べたら、これから出るんですねえ。goo.gl/ND2woこれも買いだな。
— 混沌さん (@konton57) 2013年5月21日
「本書の目的」を読んで、ふんふん、なるほどなるほど、と大いに思った。やはり文一総合出版の2冊、
と同じだ。まさに、ネット&デジカメ時代の申し子のような図鑑。
『身近な昆虫識別図鑑』と『日本の昆虫1400』どちらがお薦めか?
『日本の昆虫1400』の2冊とどちらがよいかと尋ねられたら、両方買いなさいと答える。合計たったの4,200円です。え?ウッとくる?稼ぎなさい。え?孫に買ってやるのに年金暮らし?しかたないなあ。
フィールドに実際に持っていくのなら本書です。マニアックに調べたいなら『日本の昆虫1400』の2冊です。本書の方が初心者寄りなのは間違いない。初心者寄りといっても、これだけ広範囲にわたって昆虫について知っている人は、マニアと呼ばれる人でも少ないはず。昆虫は種類があまりに多いので、全分野にくわしくなることは、ほとんど不可能なのだ。
だから、両方買いましょ。誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントでもいいでしょ。
工夫が見られて気に入っているとこ
「本書の目的」にもあるように、見た目が似ているハチとアブを並べているところは評価したい。ちょっと勇気のいる配列だ。これは無名の人には出来ない。海野和男という名前の通った著者だからできる技だ。ちょうど昨日読んだ『影響力の武器 第2版』の「第6章 権威」の内容と私の中でリンクした。
しかし、一番、いいね!と思ったのは、サイズの表記についての工夫だ。これがいい。種名の後に「極小」「小」「中」「大」「特大」など大まかな昆虫のサイズについての記載がある。そして、各ページの下に、そのサイズはどの程度かの記載がある。
例えばその虫が5mmと言われても、普通はけっこうピンと来ない。数値は確かに大切なのだが、仕事じゃないし、サイズはもっと感覚的につかみたい。だから、大きいとか小さいなのだ。
そして、その「大」とか「中」の基準が虫のグループによって変えてある。これがいい。実にいい。とても気に入った。それでしょ、それ。
例えば、同じ蝶でも、アゲハの仲間では「中」は80mm前後だが、シジミチョウの仲間では「中」は35mm前後として表記されている。この感覚でしょ、大切なのは。鳥の本で「ハト」と同じくらい、「カラス」と同じくらいというような表記を見たことがあり、とても分かりやすいと思ったことがあるが、それと似ている。
観察者にとってのこの視点。かゆいところに手が届く工夫だ。
あえて苦言を呈する!
これは『日本の昆虫1400 (2) トンボ・コウチュウ・ハチ』でもそうなのだが、トンボは、トンボは、小さい写真じゃいかん!小さい写真じゃいかん!イトトンボはいいけど。大きいトンボは小さい写真じゃいかん!!
特に本書は薄い中にぎっしり約1400種の写真を詰め込んでいるので1枚1枚の写真が小さい。思わずクリックして拡大したくなることもしばしば。種数はいっぱい載せたいけど、するとページ数がかさんで、携帯性が犠牲になり、なによりお値段に反映されて、すると売れなくなり、といったジレンマを編集部で抱えているのは、よくわかる。わかる、わかるんだけど、トンボだけはでかくしてくれ!!!何より誰より著者が断腸の思いだろう。
P184、マルタンヤンマが泣いてるよ。将棋の阪田三吉じゃないけどさ。試しにマルタンヤンマのオスとメス、私が昨年撮ったものを下に小さくしたの並べてみるけど、クリックして拡大して見てね。印象変わるでしょ。
ところで、マルタンヤンマのメス、胸に太い黒条があるというの、本書を読むまで知らなかったよ。今度撮るとき、意識してみよう。
書籍データ・購入等
フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑
観察の7つ道具>各種の図鑑>フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑
初回更新:2013-05-29 (水) 11:08:24
最終更新:2014-09-10 (水) 00:38:27
a:2333 t:1 y:0