最強交渉人が使っている一瞬で心を動かす技術

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感想など

タイトルに「一瞬」と入っている時点で、相当鍛錬を積む必要があると考えるべきだろう。もしも誰でも訓練なしに一瞬でできるのならば、はじめから本にはならない。すでにみんなやっているはずだから。

ある程度読んだ段階で、仕事でクレーム来ないかなあと不謹慎なことを考える私。クレームは、みんなのおかげで大体未然に防げているので、ここ何年もあまり大きいのに当たらない。どんどん自分のクレーム対応力が下がっていくのではないかと心配になってもしまうが、まあ、クレームなんてないに越したことはないから。

そんなわけで、私にとって交渉が必要なのは、対顧客よりも(もちろんそれもあるが)、対職員、対家族なんだな、実は。さっそく起こりましたよ、そういうことが。職場でも家庭でも。で、読んだこと、とっさにぜんぜん実践できない(笑)。痛いほどに。ええと、どうすればいいんだっけ?と考えているようではねえ(笑)。

ただ、あそこで失敗したとはっきりわかることもあった。反論しちゃったよぉ、とか。

というわけで、内容が頭に入るだけでなく、身体にしみこむまで何度でも繰り返し読み、いろいろ試してみることにきめた。

読書が2巡目のとき、家庭で応用して、うむ、それなりに成果は上がったかなと実感できたこともあった。まだまだだけどね。

どの場合も原理は同じだということに、(元)物理屋の私はとても惹かれる。それは脳の構造から来ていると。一方で、こういった相手には本書の手法ではで対応が無理とはっきり書いてあるところもよい。

原理の後にケーススタディがあって、これがわかりやすい。というか、ケーススタディがないと使いこなせるようになる気がしない。この構成はあとで気づいたが、まるで数学や物理のテキストみたいだ。

といっても、もちろんそんなに硬いものではない。物理同様、理屈はふむふむとわかって納得しても、いざ問題を解こうとしても解けないのと同じだ。だから、原理のあとに例題や演習があるようにケーススタディがあると。

ケーススタディ集だけでももう1冊本ができるだろう。ぜひ、そういったものがほしい。著者のHPに行くと、別の手法や例があるそうだが、日本語じゃないとなあ。英語ができないと、やっぱり損だね。

ところで、帯に「FBI交渉人」という文字があったのとこの表紙の雰囲気で、著者はFBIの交渉人なのかと思ったら、FBI交渉人に教えている全米トップ精神科医であった(ちゃんとそう帯に書いてあった)。立ち読み時に目次を見て、読み始めた108ページに違和感を感じたのはもっともなことだった。

その後

この本は、緩やかに、しかし最終的には人生を劇的に変える一冊だと思い始めた。それは、セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するか』と同じレベルでである。

大体において、われわれの人生の大半は、広い意味でのコミュニケーションから成り立っている。望ましいコミュニケーションが手に入れば、人生の幸福度はぐんと上がる。いや、それがすべてといってもいいかもしれない。

バブルのころ(まだ学生だった)読んだ何かに転職の一番の原因は収入ではなく人間関係と書いてあった。コミュニケーションと人間関係は同一ではないが、コミュニケーションを改善すれば人間関係が良くなることは間違いないだろう。

この本は、コミュニケーションのすべてをカバーするものではないが、最も面倒な障害を取り除くためのコミュニケーション技術の書と言ってもいいのではないだろうか。それも、すでに述べたように脳の構造からくる単純な原理に基づく手法に立脚しているので、幅広く応用が利く。

本書に出てくるように、共感を示しつつ、

  • 「なるほど。それで」
  • 「もっと話して下さい」

これを使うだけで、格段に違う。自分に近いものほど、こうして話を聞いていないものなので、効果はてきめんである。クミゴン(妻)が仕事の愚痴を言い出したときにこれを使うと、実に生き生きしてくるよ(妻の名誉のために言えば、そんな理不尽な愚痴は言わない。むしろ、理不尽な目に遭っているのは妻の方である)。

つい昨日も顧客からのクレームでこれを用いた。クレームと言ってもこちらに落ち度はなく、顧客同士の問題で、しかしそれゆえに厄介なものでもあった。どちらも優良顧客である。

部下からの報告で、けっこう怒ってましたよ、とのことだが、しかし、きっかけを作ったのはあんたでしょ、という状況だった。入社して間もないまだ経験が浅いころならば、理路整然と説明して、相手をさらに怒らせたかもしれない(笑)。さすがに今は経験をつんで(痛い目にたくさん遭ったともいう)そんなことはしないが。

当面の仕事が終わってから、最後に電話した。電話をしたときはもう落ち着いていた。むしろ私からの電話で恐縮していた。まあ、ここまではクレーム対応でよくあるパターンだ。しかし、ここで気を緩めていたのが今までだ。ここから先は本書で学習したことを応用した。

「でも、大切なものなんですよね?」「がっかりしたんじゃないんですか?」「もっとくわしい状況をお聞かせください」

「もういいんです」「こっちが最初に××したんですし」「そんなに××なものでもないですから」

「事を荒立てないほうがいいですね?」と念を押した(これはよけいだったか?)。多分、うまくいったと思う。

日常に目を向けると、応用箇所は無数に存在する。人生が緩やかに、しかし最終的には劇的に改善するはずだ。

自分の仕事を振り返ってみて、うまくいっているときやうまくいったことは、実は無意識にこの本に書いてあることを実践していたということに気づく。それを無意識にではなく、意識的に行うようにすることで(またレベルアップするとそれが無意識にできるようになるものだが)、偶然にではなく、必然的に人生の幸福を味わえるようになるとさえ思う。この本は、自信を持ってお勧めである!

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最強交渉人が使っている 一瞬で心を動かす技術

混沌の書棚>自己啓発・ビジネス書>最強交渉人が使っている一瞬で心を動かす技術

初回更新:2012-06-11 (月) 00:32:56
最終更新:2016-02-29 (月) 10:39:10
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